1 はじめに
ここで言う「信託」(以後、鍵括弧を省略。)は、信託法の下、一定の目的に従って行われる財産の管理・処分等(以後、「財産管理」と言います。)のための制度です。
信託は、様々な場面で有用となる仕組みですが、そのイメージは一般に共有されているとは言えません。
ここでは信託をイメージするために、信託の基本的な例を基に、信託による財産管理の流れを見てみることにします。
- ここで言う基本的な例とは、 信託契約による信託であって、委託者、受託者、受益者が同一人でない場合とします。
2 信託の典型例から信託をイメージする
(1) 信託による財産管理の流れのイメージ
信託における財産管理の流れをイメージするために、 信託によって下記のような財産管理を行う場合を見てみましょう。
ある一定の財産を有しているAがいます。
Aは、今までその財産から生じた収益を、定期的にCに生活費として渡していました。
Aは、自己が財産の管理・処分等を行えない場合や 自己の死亡後も、Cに生活費を継続して給付するために、Bに自己の財産の管理等をさせたいと思っています。
信託によって財産管理がなされるとき、 上記のA、B、Cをそれぞれ次のように言います。
- A = 委託者
- B = 受託者
- C = 受益者
受託者(B)は委託者(A)の財産の管理等を行い、その財産から生じた収益を受益者(C)に給付します。
信託による財産管理の流れをイメージすると 下記のようになります。
- 委託者とは、
- 信託により管理又は処分をすべき財産を拠出し、信託行為により信託を設定する者を言います。
- 受託者とは、
- 委託者が拠出した財産の帰属者であり、信託行為の定めに従い、「信託財産に属する財産の管理又は処分及び その他の信託の目的の達成のために必要な行為をすべき 義務を負う者」を言います。
- 受益者とは、
- 受託者に対し、信託財産に属する財産の引渡し その他の信託財産に係る給付等を請求できる権利(「受益債権」)及びこれを確保するために受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利を有する者を言います。
(2) 信託による財産管理の流れのイメージのポイント
上記のイメージのポイントは次の2点にあります。
- 受託者が義務を負っていること(図の➂)
- 受益者が権利を有していること(図の➃')
受託者は、「信託契約」及び信託法により、信託による財産管理に対して義務を負います(➂)。
受益者は、一定の財産の給付等を受けるうる権利と共に「信託契約」及び信託法によりその権利を確保するための権利を有しています(➃')。
受益者自身によって自己の権利を確保することが可能となることによって、受託者の義務の履行の可能性が高くなります。
委託者が意図した財産管理がより確実に現実化しうることにります。
信託という制度の目的は、委託者の意思を尊重し受益者の利益を保護することにあります。
上記➂、➃'は、このような信託という制度の目的の達成のために特に附与された権利義務と言えます。
信託による財産管理を行うためには、下記の方法によってその内容等を定める必要があります。
- 信託契約
- 遺言
- 自己信託(信託宣言による信託)
1.の信託契約は、2者以上の者の合意により信託の内容等を定める方法です。
2.の遺言は、民法が定める遺言の方法(民法では「方式」と言います。)に従って作成された遺言において信託の内容等を定める方法です。
3.の自己信託は、公正証書等の書面によって自己を委託者兼受託者としてその内容等を定める方法です。
1~3の方法により信託を設定する意思表示を、信託行為といいます。
ここでは信託契約による例を見てきました。
3 おわりに
この頁では、信託のイメージを持っていただくために、 信託による財産管理の基本的な例を見てきました。
信託は柔軟性のある制度です。
今回は理解のしやすさを優先して、1つの例を見てきましたが、上記のような基本的な例に限らず、様々な財産管理を行うことが可能であることを付け加えておきます。